グーグルのOS参入「クロームOS」から思う

<OS無償化時代の到来か>

 マイクロソフトからWindows7が今年発表されたばかりである。
 このWindows7は、前作のVistaに比べて速いとかシンプルであるとかと概ねユーザーには好評のようである。

 そんな中、革新的なアイデアで急成長をしている「グーグル」からOSへの参入が表明されて話題を呼んでいる。
 「クロームOS」と言うのだが、その最大の特徴は「無償」であることであろう。

 これまでOSと言えばマイクロソフト「Windows」の独占的な市場であった。
 ここに無償であるOSが、しかもグーグルから出るという衝撃はかなりなインパクトがあると言ってよい。

 既に、世界トップのPCメーカーである米ヒューレット・パッカード(HP)をはじめ、台湾エイサー、東芝、中国レノボなど世界の名だたるPCベンダーがクロームOSの共同開発に参画することを表明している。
 クロームOSの詳細は不明であるが、同社のウェブブラウザーであるクロームにOS機能を一体化させたもので、オープンソース(プログラムの設計図が公開され、誰でも利用できる)の無償OSと見られているのである。

 中国やインドなどの新興国で急激な伸びを示しているパソコン市場であるが、そこでの必然的な低価格競争に対してOSの無償化によるメリットは計り知れない。
 このことは、世界のOS市場を独占しているマイクロソフトやアップルにとってかなりな驚異となる筈である。



<実は20年前に日本に無償のOSが存在した>

 無償OSというと耳新しいもののように感じるが、実は20年程前、即ち「Windows」の草創期の頃のこの日本に「トロン」というOSがあったのである。
 「トロン」は坂村健・東大教授(当時、助手)が開発した基本OSでオープンソースであり無償なのであった。

 95年に「Windows95」が日本に上陸しパソコン市場を席巻し独占したわけだが、実はその当時、日本の多くのパソコンメーカーはOSとして「トロン」の採用を希望していたのである。
 それがWindows95の独占的な採用になったのは、米国政府からの圧力だったのである。
 即ち、米国政府からの 「スーパー301条」による報復関税や輸入制限の制裁措置をちらつかせた圧力に、当時の日本政府が屈した結果だったのである。

 もしもこのとき日本のメーカーがパソコンのOSを「トロン」にしていたなら、無償というメリットもあって世界中のパソコンに採用されていたかも知れないのである。
 日本の基本OSが世界を席巻し、現在のマイクロソフト「Windows」の躍進やOS市場の独占も無かったかも知れないのである。



<現在トロンは搭載数が世界一のOSである>

 この日本発の基本OSはその後消滅はしなかった。
 「トロン」には、「Windows」に遥かに勝る「省エネ能力」と「高速処理能力」というメリットがあったのである。

 この特長によって、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、DVD、FAX、コピー機、カーナビ、銀行のATM、電子ピアノなどあらゆる電子機器が、実は「トロン」で動いているのである。
 何と、現在では、世界で最も搭載数の多いOSに成長しているのである。

 そして、今日のグーグルの「クロームOS」の参入を見たとき、日本の「トロン」は20年も前にその先を行っていたとは言えないだろうか。
 グーグルも米国の企業ではあるが、当時の米国の政治的圧力で「トロン」の採用が見送られたことを、返すがえす残念に思うのであり情けなくも思うのである。


参考資料(過去のブログ記事「Windows Vista」)→ http://blogs.yahoo.co.jp/ming_sunfield/10626985.html



<先進の科学技術の開発は将来の国の力の源泉である>

 日本が開発した「トロン」という優れた基本OSが、米国政府からの圧力で採用にならず「Windows」に取って代わられたという歴史的な事実は、日本の政治の大きな汚点であったと思うのである。
 このように優れた科学技術が政治的な駆け引きによって捻じ曲げられた例は、他にも多くあるのではないかと思う。

 米国の凄いところは、政治的な力によって自国の技術を他国に採用させて世界標準にまでしてしまうことであろう。そして、その技術による商品を大量に世界へ輸出し利益を上げるのである。
 例えば日本などは「トロン」という優れた基本OSがありながら、マイクロソフトの「Windows」を無理やり採用させられてその最大規模の市場にされてしまったわけである。

 今回のグーグルの無償の「クロームOS」も、米国政府が中国やインドには高価なマイクロソフトの「Windows」を強制的に採用をさせるのは無理だと判断し、敢えて無償のOSを了承したとも考えられるのである。
 即ち、パソコンの最大市場である中国やインドに無償OSであることで、米国のパソコン(HPなど)を採用させ易くし米国にとってのパソコン市場の拡大を図るという狙いが見えて来るのである。

 ITや宇宙開発、医療や生命科学、基礎科学などの先進の科学技術の開発は将来の国家の力の源泉である。
 そして「トロン」での失敗などで反省が求められるところの、技術立国としての国際的な政治力や外交力の強化がこれからの日本にとって必要であると考えるのである。

 ・・・最後は言葉足らずになってしまうかも知れないが、現在、民主党の新政権には「国家戦略局(室)」という新設組織がある。
 この「国家戦略局(室)」を今後充実させ最大限に機能させることで、技術立国日本の将来の姿を描き、日本の政治力と外交力を強化して行きそれらを実現して、将来の国力強化や経済成長を成して欲しいと願ってやまないのである。