霞ヶ関、民主党を潰し人事権を確保する

 <国策捜査の疑念が残る>

 3月24日、西松建設をめぐる違法献金疑惑事件で、東京地検特捜部は小沢一郎民主党代表の公設第一秘書大久保隆規容疑者を、虚偽の記載の「政治資金規正法違反」の罪という形式犯で起訴した。
 予想通りと言うか、「泰山鳴動して鼠一匹」という感がある。
 どうしても、総選挙を目前にしたこの時期に、政権を取るかも知れない民主党の代表の秘書をいきなり逮捕するという必要性があったのか、という大きな疑念が残るのである。

 東京地検は谷川次席検事と佐久間特捜部長が、このことについて異例な記者会見を開き説明をした。
 それはこの件の収支報告書への虚偽記載を、看過できない重大悪質なものであるという説明であった。

 しかしである、収支報告書は献金者名を書くようになっていて、その出所を調査したりして書くようなものではない。
 従って、虚偽を記載したというのは、かなり無理があるのではないだろうか。

 更にである、このような形式犯で虚偽記載が成立するのであれば、もっと多くの国会議員にその可能性があるとは言えないか。
 特に、企業献金が多い与党・自民党の議員にその可能性が高いと言えると思われるのである。

 ましてや、斡旋収賄罪などとなれば、公共事業の決定権を握っている与党・自民党のしかも大臣クラスにその可能性があるのではないだろうか。
 管轄省庁などを持っていない、野党の議員では代表クラスでもその可能性は、それより遥かに低い筈である。

 それが、政権交代を目前に見据えた民主党の代表の秘書を、いきなり強制捜査をして逮捕というのは全く解せない話なのである。
 しかも、これまで全く前例の無い「形式犯」での逮捕なのである。

 このことについての東京地検の説明は、全く理解出来ず、何故こんな理解も得られないような「逮捕・起訴」をしたのか、と疑念を持ってしまうのである。
 どうしても、今回の件は、「国策捜査」ではなかったのかという重大な疑いを持たざるを得ない。


 <東京地検は被霞ヶ関改革の当事者である>

 民主党が政権を取った場合、霞ヶ関官僚機構の大改革を行うことになる。
 「天下り・渡りの廃止」や「キャリア制度の廃止」など「官僚主導から国民・政治主導による予算運営」、「地方への分権と官僚の削減」などを実行することになる。

 霞ヶ関官僚機構にとっては、このような政策を目指す民主党はまさに「天敵」だと言える。
 何としても、民主党政権の樹立は防ぎたい筈である。

 今回の逮捕劇を行ったのは「東京地検」であるが、これは「検察庁」というれっきとした「霞ヶ関官僚機構」の一部なのである。
 確かに職務の性質上、他の官僚機構とは違う独立性を持っているのかも知れないが、霞ヶ関の一部であることに変わりはない。

 実際、検事総長をはじめ天下りや渡りは行われており、その利権を無くしたくはない筈である。
 だから、東京地検や検察庁といえども、民主党に対しては中立な第3者とはなり得ず、霞ヶ関という「当事者」の一方の構成員なのである。

 霞ヶ関改革という場で、一方の当事者が他方を裁くというその構図に着目しないといけない。
 このことが「国策捜査」ではないかという疑念を、更に増幅するのである。


 <霞ヶ関の政治テロではないのか>

 「政治テロ」という言い方は、少々物騒過ぎる表現なのかも知れない。
 だが、上述のような「当事者」という構図と「国策捜査」という疑いがあるとすれば、決して言い過ぎではないだろう。

 「政治テロ」だとした場合、その効果は明白である。
 宿敵民主党のイメージを落とし、或いは小沢代表を辞任に追い込み、旨く行けば民主党を分裂させることが出来る。

 そして、次の総選挙で与党・自公政権が勝利し、霞ヶ関も安泰となるのである。
 「政治テロ」だとすると、効果絶大なのである。

 そして、それが今、まさにそのように進行しようとしている。
 一旦、代表続投を表明した小沢民主党代表への、同党内からの辞任要求が出始めている。


 <霞ヶ関の目的はふたつである>

 今回の事件が霞ヶ関の「政治テロ」だという仮説に立った場合、霞ヶ関の目的はふたつだと見られる。
 ひとつは、小沢民主党に政治的ダメージを与えることであって、「民主党政権を阻止」することである。

 もうひとつは、「天下り・渡りの温存」や「キャリア制度の維持」をするための、公務員改革に於ける内閣人事局長という「人事権の確保」であろう。
 この人事権を霞ヶ関のキャリア官僚が握ることで、現在の公務員制度は完全に維持され霞ヶ関は何も変わることなく温存されるのである。

 「民主党政権の阻止」と「人事権の確保」とを結びつける一人の人物がいる。漆間巌内閣官房副長官である。
 この人は先日、「東京地検の捜査が自民党議員には拡大しない」と述べてこの件が国策捜査である疑いを強めたのである。

 そして、霞ヶ関の人事権を一手に握る「内閣人事局長」に、これから就こうとしている人物であるともされる。
 漆間氏は元警察庁長官であり、まさに霞ヶ関キャリア官僚のトップなのである。

 僕が見るところ、霞ヶ関と麻生政権は持ちつ持たれつなのであり、麻生政権は霞ヶ関改革に積極的であるとはとても思えない。
 麻生政権を脅かす小沢民主党に対して霞ヶ関が「政治テロ」を行う引き換えに、霞ヶ関が「内閣人事局長」のポストを要求したとしても、全く不思議ではないだろう。


 <日本は民主主義国家なのか?>

 この様に考えて来ると、日本の民主主義というものが霞ヶ関という組織によって、大きく歪められているのではないかという疑念が湧き上がって来るのである。
 国政も予算も天下りも、そして選挙までもが歪められてはいないだろうか。霞ヶ関という巨大組織の利権のためだけに政治が行われてはいないだろうか。

 世界の主な国の中で、この10年間に政権交代をしていない国が3カ国だけある。中国と、あの北朝鮮と、日本なのである。
 もしかしたら、日本はこのレベルの国なのではないだろうか。中国と北朝鮮は官僚構造で体制を維持している社会主義の国である。

 日本はここ60年間の内で、たった1回しか政権交代をしたことが無い。それもほんの1年足らずの期間なのである。
 殆ど、形ばかりの選挙をやっている中国や北朝鮮と変わらないのではないだろうか。

 政権交代をしないから、官僚だけが強くなり太るのである。特殊法人という天下り先など、自分たちの利権をこしらえ温存させ増やすことをやっている。
 あげく、自分たちのこうした利権を脅かす、政権交代を妨害するという公務を公然と行ってはいないだろうか。

 いい例として、議会で決定した霞ヶ関に都合の悪い事案を、文面を勝手に書き換え都合のよい内容に改ざんしたりしている例が多数ある。
 そして、今回の天敵民主党を標的にした「政治テロ」を疑ってしまう「国策捜査」の疑惑なのである。