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「男たちの大和/YAMATO」

 2005年の東映の配給作品で、当時、映画館に観に行きました。今回はDVDでの鑑賞です。
 歌人で、ノンフィクション作家である「辺見じゅん」さんの小説が原作で、弟君である「角川春樹」氏の製作、監督・脚本は「佐藤純彌」氏である。
 終戦間際の日本にあって、菊水作戦で沖縄へ死の特攻をする戦艦大和の若い乗組員たちの生き様を描いている。

 「戦艦大和」は、ご存知のように、太平洋戦争当時に就航した当時世界最大の排水量7万2千トンの戦艦である。同型艦には、「武蔵」がある。
 就航した当時はもう既に航空機の時代になっていて、最初から時代遅れの感があった不幸な生い立ちであったとも言える。
 事実、同型の3番艦「信濃」は空母に改造されて建造されている。また、同4番艦は建造の途中で中止され、スクラップにされ他の改造空母の材料に回されている。
 実際に完成就航したのは「大和」と「武蔵」の2隻だけで、「信濃」は防水設備が整わないままの完成前に米潜水艦の餌食になって熊野灘沖で沈没している。
 尚、この改造空母「信濃」は排水量は約7万トンで当時世界最大の空母ではあったが、主設計が違うため搭載機はその大きさの割には40機程度(一説には十数機)と少なくかなり効率の悪い空母であった。

 「戦艦大和」にはドイツの「戦艦ビスマルク」(排水量5万トン)のような華々しい戦績が殆ど無いと言ってよい。
 「ビスマルク」は戦艦同士の砲撃戦で英国の巡洋戦艦「フッド」を轟沈させ、戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」を大破させるなどの大戦果を挙げた。
 「大和」の場合、おそらくレイテ沖海戦などで3回か4回の対艦砲撃戦を行ったが、大破した米軽空母や駆逐艦は「大和」の砲弾によるものではないというのが定説であるようである。従って、撃沈した軍艦などは1隻も無い。

 そして、「ビスマルク」は英空母「アーク・ロイヤル」の艦載機の攻撃で舵を失い、このためその後、英巡洋艦に沈められるのである。
 また、日本も英戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」を航空機による攻撃で沈めているし、何よりも「真珠湾攻撃」で航空機が海軍の主力であることを証明して見せている。
 「戦艦大和」はこうした戦艦から航空機への時代の変わり目に登場した、時代遅れの「ドン・キ・ホーテ」のような存在だったのかも知れない。

 菊水作戦当時の日本海軍(帝国海軍)は、レイテ沖海戦で「武蔵」などの主用艦の殆どを失い、燃料の重油にも事欠く風前の灯火のような状況であった。
 この「大和」が、日本海軍の魂と誇りと決死の覚悟の乗組員を乗せ、沖縄に向けて、片道分の燃料だけの「死の特攻」に赴いてゆく。
 映画では、この「死の特攻」に向かった「大和」の乗組員の生き様を、生き残りの一水兵の視点から過去を回想する形で描かれて行く。

 原作者の「辺見じゅん」さんが、お父様である「角川源蔵」氏から幼い頃に語り聞かされた、「戦艦大和」の話の強い印象で描かれているのだろうか。「鈴木京香」さん演ずる内田真貴子が、「仲代達矢」さん演ずる神尾克己から回想する当時の話を船の上で聞くという展開になっている。
 この映画を観ての、僕の感想は省くことにしたい。とてもありきたりな感想である。

 この「大和」の特攻を最期に日本海軍は壊滅する。
 ただ1隻だけ、「雪風」という駆逐艦が残った。「大和」の護衛で同行した駆逐艦の内の1隻なのだが、殆ど無傷であった。
 「大和」の乗組員の生き残りを救助して日本に帰って来るのである。
 この「雪風」は何度も大きな実戦に参加したにも関わらず、終戦まで無傷であった駆逐艦なのである。
 そのため、「ゆきかぜ」という名前は縁起が良いということで、現在の海上自衛隊の護衛艦にも使われている。

 太平洋戦争で日本海軍は壊滅したとされているのだが、実際はそうではない。
 米国海軍は、実は、日本海軍を解体してはいないのである。
 終戦後、生き残った「掃海艇」が、日本の周りに日本がばら撒いた機雷を除去する作業を行っていた。
 この「掃海艇」隊が、その後勃発した朝鮮戦争で、米国海軍と共に朝鮮半島に出撃しているのである。

 名称こそは「海上警備隊」などと変わってはいるが、中身は「日本海軍」そのものなのであった。
 つまり、戦後自衛隊が発足する以前に日本の「Navy」の海外派兵は行われていたのである。
 この間のインド洋への補給艦の派遣が、海上自衛隊初の海外軍事派遣では無いのである。

 米国海軍は、日本海軍の機雷掃海能力を高く評価していて、日本海軍は解体されないまま海上自衛隊へと引き継いでいるのである。
 この点、徹底的に解体された日本陸軍とは完全に異なる。
 米国は日本海軍をある意味尊敬の目で見ていたところがあり、戦争を引き起こしたのは日本陸軍であったと考えていたようでもある。

 かくして、明治以来、黄海海戦や日本海海戦、真珠湾攻撃など多くの輝かしい戦歴を持った日本の「Navy」は今日、海上自衛隊として存続しているのである。
 日本は島国であって、四方の海というように、ここを守る「Navy」無くしては国の安全が保てないという地勢的な要請がある。
 冷戦構造が壊れ、東アジアには新しい安全保障体制が出来上がろうともしている。
 同盟国である米国の圧倒的な覇権も次第に東アジアから後退して行くだろうし、台頭する中国や好調のロシア、先日一触即発になった台湾や韓国、そして北朝鮮と、海防力でこれら近隣諸国と均衡優勢を保って行かねばならない。
 特に、今後、東シナ海での資源や領海での争いが起こる可能性があるので、海防力はその抑止力として重要になって行くと考えられる。

 「大和」は世界最大の戦艦であった。その後、戦艦というものは世界中で建造されていないから、歴史的にも世界最大である。
 戦艦の時代は終わったのであったが、米国では「アイオワ級戦艦」(排水量5万7千トン)が朝鮮戦争やベトナム戦争、そして何と湾岸戦争まで実戦で使用されていたのである。
 主力艦としてではなく、海上の強力な移動砲台として、或いは巡航ミサイル・トマホークなどの発射台として使用された。
 米国の「戦艦」は恵まれた幸福な人生、或いは余生を送ったことになる。
 日本の「戦艦大和」の死の特攻という悲劇的な末路と、どうしても比較してしまうのである。
 その戦績にも違いが有り過ぎる。「大和」が全くの「無戦果」だったのに対して、「アイオワ級戦艦」は輝かしい多くの戦果と戦歴を残しているのである。
 おそらく、史上最強の戦艦というのを選んだとしたら、それは間違いなく「アイオワ級戦艦」なのであろう。
 おっと、映画「男たちの大和/YAMATO」の感想から、ちょっと飛躍、脱線して日本海軍や戦艦の話になってしまったようである。